巻頭言

肺

客員教授 萩原弘一 この度、当番世話人として、第32回日本癌病態治療研究会を2023年6月1-2日に埼玉県大宮市で開催させていただくことになりました。 本研究会は、1991年に磯野可一元千葉大学学長、日本外科学会名誉会長が中心となって立ち上げられた研究会です。消化器系を中心としながら、他臓器、基礎医学者を含め、癌の分子機構、病態、治療法に関する研究を発表し、知識を高め合う場として発展してきました。さらに研究会固有の英文雑誌(Annals of Cancer Research and Therapy)を持ち、多数の論文を掲載、癌研究の発展に寄与して来ました。

今回のテーマは「臓器横断的な癌治療知識の集約と応用」です。 従来の癌治療は、外科治療、殺細胞性抗癌剤治療(いわゆる化学療法)を中心として発展してきました。しかし近年、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が導入され、様相が一変しています。一つの臓器に導入された治療薬が他の臓器にも次々と使用されるようになり、効果、副作用など、他臓器の情報にいつも耳を立てておかなければならない時代になりました。遠隔転移のある癌、すなわちIV期の癌は根治困難であることは、臨床腫瘍学の常識でした。しかし、その古い常識が崩れ始めています。IV期の癌でも根治する症例が出るようになりました。外科治療、薬物治療、放射線治療の総力戦で、どの程度の割合の患者さんを根治に持っていけるか、研究者、臨床家の手腕が問われています。

癌治療は、人文科学的にも進歩しました。人間にとって死は避けられないことです。効果が見込めないほど癌が進展した場合に、治療を継続することは避けなければなりません。根治が難しいことが明確になったとき、どのように死を迎えていくか。エビデンスに基づきながら、患者さんとなるべく早く話し合い、決定していかなければなりません。以前は医療者個人の能力に任されていた事項ですが、医療チーム、患者さん、患者家族が情報を共有しながら考えて行けるよう、手続きが整備されて来ています。

癌治療過程では、巨大なデータが生み出されます。個人の画像情報、ゲノム情報、さらに国レベルでの診療報酬明細書での病名、その記載日、薬剤処方情報などです。これらの巨大なデータを上手に利用すれば、各疾患の病態、発症予測、治療手段の発見などが可能になると推定されています。適切な個人情報保護手段を用いて匿名化した上で、実際の応用が始まっています。

多種多様な進歩を見せる癌医療を勉強し、自分のものとするために、医療者は常に勉強しなければなりません。本研究会が、その良い機会になるよう、心して企画し、開催したいと考えています。 多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。

2023年1月吉日
第32回日本癌病態治療研究会当番世話人
自治医科大学客員教授萩原弘一